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子会社設立の実務ノート 親会社がやる決議・開示・会計・税務を、設立の順に
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英語 ・ 約11分

「子会社を設立する」の英語:establish・incorporate・set up を親会社の文書で使い分ける

文:『子会社設立の実務ノート』編集部 / 掲載

この記事の前提
親会社上場・非上場の両方(英文のお知らせの章は上場会社の書き方を中心に)
出資100%子会社を中心に、一部出資・合弁の書き方を注記
つくる先国内に子会社をつくり、英語で知らせる場面(海外子会社は注記)
「子会社を設立する」の英語:establish・incorporate・set up を親会社の文書で使い分けるのアイキャッチ

SECTION 01三つの動詞の役割:何を言いたいかで決める

三つの動詞の守備範囲。法人格・組織の立ち上げ・手配のどこに焦点があるか

「子会社を設立する」の英語は一つに決まっているわけではありません。英語で何を強調したいかによって、選ぶ動詞が変わります。手がかりになるのが、辞書がそれぞれの語に与えている定義です。

ケンブリッジ英語辞典は、establish を「長く続く会社や組織を始めること」と説明しています。set up には「新しい会社や組織、仕組み、働き方などを正式に立ち上げること」という定義があり、incorporate には「会社を法律上の法人にすること」という意味が載っています。並べると、incorporate は法人格に、establish は継続する組織に、set up は立ち上げる行為そのものに焦点がある、と整理できます。

図:「子会社を設立する」に使う三つの動詞

どれを選んでも誤りではない場面が多いのですが、同じ文書の中で三つが入れ替わると、読み手は別々の出来事が起きたのかと迷います。親会社の文書で使う動詞は、文書の種類ごとに一つに決めておくのが基本です。

迷ったときは、その文で伝えたい事実が「登記が済んで会社が成立したこと」なのか「事業の受け皿をつくると決めたこと」なのかを、日本語で一度書き出してみてください。前者なら incorporate、後者なら establish か set up が座りやすくなります。

SECTION 02incorporate:法人として成立させる、を言うとき

incorporate は法人格の言葉。会社法の英訳は設立の条文で incorporate を使う

法令の言い方に合わせたい文書では、incorporate がいちばん素直な選択です。日本法令外国語訳データベースの会社法英訳では、株式会社の設立の方法を定める25条1項が A stock company may be incorporated by either of the following methods と訳されています。定款の作成を定める26条1項も In order to incorporate a stock company で始まります。

設立の完了を言う49条の英訳は A stock company is formed by the registration of the incorporation at the location of its head office です。本店の所在地で設立の登記をすることで成立する、という日本語に対応しています。登記が済んだ事実を伝える英文では、incorporation と registration を組み合わせると、日本の手続きの順序がそのまま伝わります。

決定の段階で書く英語

  • has resolved to incorporate
  • plans to incorporate
  • will be incorporated on

登記が済んだ段階で書く英語

  • was incorporated on
  • completed the registration of incorporation
  • has been formed

incorporate には「組み入れる」という別の意味もあります。The new subsidiary will incorporate the sales division のように書くと、事業部を取り込むという意味に読まれるおそれがあるため、会社をつくる意味で使うときは目的語に会社そのものを置くのが無難です。

新会社を設立するときの取締役は、会社法では設立時取締役と呼ばれ、標準対訳辞書では director at incorporation と訳されています。「at incorporation」を付けた語は、設立の手続き中だけの立場を表す言い方として、ほかの役職にも同じ形で使われています。

SECTION 03establish:続いていく組織を始める、を言うとき

establish は組織の言葉。設立の訳語には establishment も挙がっている

法務省の標準対訳辞書で「設立」を引くと、formation、establishment、incorporation の三つが並びます。incorporation にだけ「会社設立の場合」という注記が付いており、establishment は会社に限らず組織や制度を設けるときにも使われる語だと読み取れます。

会社法の英訳を見ても、取締役会が取締役に委任できない事項を定める362条4項4号では、支店その他の重要な組織の設置が the establishment … of important structures including branch offices と訳されています。法人格を持たない拠点を設けることにも establishment が使われるわけです。

そのため、英文のお知らせで establish を使うと、新しい法人が生まれることよりも、事業の拠点や体制を整えることに重心が置かれた印象になります。投資家や取引先にとって知りたいのは「どの事業を、どんな体制で始めるのか」であることが多いので、お知らせの本文では establish が読みやすい選択になりやすいのです。

問い:支店の設置と子会社の設立を、同じ establish で書いてよいですか
書くことはできますが、読み手が法人かどうかを区別できなくなります。子会社なら a wholly owned subsidiary や a new company を目的語に置き、支店なら branch office を置いて、目的語の側で違いを示してください。

SECTION 04set up:メールや社内の案内で使いやすい言い方

set up は手配の言葉。口語寄り。正式な文書では他の動詞と併用しない

set up は、取引先へのメールや社内の案内で使いやすい句動詞です。ケンブリッジ英語辞典は、ビジネスの意味として「新しい会社や組織、仕組み、働き方などを正式に立ち上げること」を挙げています。We are setting up a new subsidiary to handle our logistics business のように書けば、硬すぎない文になります。

一方で、set up には「準備する」「組み立てる」「人をはめる」といった別の意味もあり、文脈によって受け取られ方が揺れます。正式な開示資料や契約書で set up を使うと、法人格の有無や手続きの段階があいまいになるため、親会社の対外文書では establish か incorporate に寄せたほうが安心です。

チェックリストの図:set up を使ってよいかの見分け方

社内向けの文書でも、後から対外文書に転用される可能性があるものは、最初から正式な動詞で書いておくと手直しが減ります。

SECTION 05主語・目的語・前置詞:誰が、どんな会社を、どこに

文の部品をそろえる。主語は親会社、目的語は子会社、場所は in で示す

動詞を決めたら、次は文の部品です。英文のお知らせでは、主語を親会社、目的語を新しい子会社にした文が基本になります。XYZ Co., Ltd. has resolved to establish a wholly owned subsidiary in Osaka. のように、誰が・何を・どこに、が一文に収まる形です。

100%子会社なら wholly owned subsidiary が使えます。ケンブリッジ英語辞典は wholly-owned subsidiary を「株式のすべてを別の会社に所有されている会社」と定義しています。一部出資の場合は、親会社の持分を数字で添えるほうが誤解がありません。a subsidiary in which the Company will hold 60% of the voting rights のように書くと、比率がそのまま伝わります。

日本語の要素 英語での置き方 作例
設立する場所 in + 都市名・国名 in Fukuoka
準拠する法律 under the laws of + 国名 under the laws of Japan
出資の比率 hold + 数字 + of the voting rights hold 60% of the voting rights
設立の予定日 scheduled for + 年月 scheduled for April 2027

当サイトの作例。実際の文面は社内の英文校閲と専門家の確認を経て確定する

海外に子会社をつくる場合は、under the laws of の後に現地の国名や州名を置くと、どの国の会社法に基づく会社かが明確になります。現地の会社の形態名は国ごとに違うため、現地の専門家が示した名称をそのまま使うようにしてください。日本の親会社側の手続きは「海外子会社設立」の棚で扱っています。

SECTION 06英文のお知らせの型:見出しと冒頭の一文

英文のお知らせの骨組み。見出し・冒頭の一文・項目の順で組み立てる

日本取引所グループは、英文資料の標準化と作成負担の軽減を目的に、決定事実や発生事実の英文開示様式例を公開しています。決定事実の様式例集を開くと、見出しは Notice Concerning で始まる形にそろえられ、冒頭の一文は XXXXXX Co., Ltd. (the "Company") hereby announces that it has resolved, at a meeting of the Board of Directors held on MM DD, YYYY, to … という形で書かれています。

子会社の新設そのものの様式例は、この決定事実の様式例集には見当たりませんでした。近いのは株式の取得で子会社化する場合の見本で、Overview of the subsidiary の下に Name、Location、Description of business、Share capital、Date of establishment、Relationship between the Company and said company といった項目が並び、その後に Timetable と Future outlook が続きます。

流れの図:子会社設立の英文のお知らせの組み立て(作例)

上の流れは、様式例の項目名を参考に当サイトが組み立てた作例です。冒頭の一文に入れる決議機関は、実際にどの機関で決めたかに合わせます。取締役会設置会社であっても、子会社設立をどの機関で決めるかは付議基準や定款によって異なるため、日本語版の記載と同じ機関名を英語にしてください。

実在する会社のお知らせの文面を下敷きにすると、他社の固有の事情や言い回しがそのまま残ってしまいます。様式例の項目名を骨組みにし、本文は自社の事実から書き起こすのが安全です。

SECTION 07上場会社の英文開示:日本語版と同じ事実を、同じ順で

日本語版と英語版をそろえる。分類名も英語の対訳表を参照して付ける

プライム市場の親会社は、日本語の適時開示と同時に英語でも開示する義務があります。子会社の設立が開示の対象になるかどうかは、日本語の会社情報適時開示ガイドブックの基準で先に判断し、対象になると決まった時点で、英語版の担当と翻訳の日程を確保しておきます。

TDnet で配信される開示には分類があり、その分類にも英語名が付いています。日本取引所グループが公開している日英対訳集の対比表で子会社等の異動を伴う事項の欄を見ると、英語名の後半は「子会社の異動」にあたる言い回しで結ばれています。本文で使う動詞は establish や incorporate、分類の名前は異動を表す語、という二つの層があると覚えておけば、担当者の間で話が食い違いません。

  • 日本語版の確定稿ができてから英訳に入る
  • 数字・日付・会社名は日本語版から機械的に転記して照合する
  • 日本語版を修正したら英語版も同じ時刻に直す
  • 英語版にも問い合わせ先の部署と電話番号を入れる

非上場の親会社であっても、海外の株主や金融機関に子会社設立を知らせる場合は、この手順をそのまま使えます。日本語版を正とし、英語版はその写しであることを社内で決めておくと、表現の揺れが起きても判断がぶれません。

SECTION 08定款・議事録・契約書を英訳するときの注意

英訳は参考、正文は日本語。どの書類が正本かを英文の側にも明記する

子会社の設立に合わせて、定款や取締役会の議事録、親会社との業務委託契約などを英訳する場面もあります。海外の出資者や金融機関から求められることが多いのは、定款の英訳と、設立を決めた決議の記録です。

英訳の位置づけは最初に決めておきます。日本法令外国語訳データベースの利用上の注意にも、掲載の翻訳は正文ではなく、法的効力を持つのは日本語の法令自体であると書かれています。社内の書類でも、日本語の原本が正本で英文は参考訳である、という一文を英訳の冒頭か末尾に入れておくと、食い違いが見つかったときの扱いがはっきりします。

英文の契約書を最初から英語で作る場合は、日本語版との優先関係、準拠法、紛争の解決方法を契約の中で決める必要があります。どの条項をどう書くかは契約ごとの法的判断なので、弁護士に確認してください。当サイトは文書の作成や代理は行っていません。

定款の商号の条文に英文表記を加えておくかどうかも、設立の前に決めておきたい点です。定款に英文表記を書いても登記の商号が変わるわけではありませんが、英文社名の根拠を社内規程の形で残せるという利点があります。

SECTION 09まとめ:動詞を一つ選び、文書ごとに使い分けを固定する

動詞を決めて固定する。法人格なら incorporate、事業の始まりなら establish

「子会社を設立する」の英語には、incorporate、establish、set up の三つの有力な候補があります。法人格の成立を言うなら incorporate、継続する組織や事業の始まりを伝えるなら establish、メールや社内の案内なら set up が使いやすい、というのが辞書と法令英訳から見た整理です。

英文のお知らせは、東証の英文開示様式例の項目名を骨組みにし、本文は自社の事実から書き起こします。上場会社であれば分類名は change in subsidiary の系統になり、プライム市場の親会社は日本語と同時の英文開示が求められます。

  1. 伝えたい事実が法人の成立か事業の開始かを日本語で書く
  2. 文書の種類ごとに動詞を一つ決める
  3. 主語・目的語・場所・比率の置き方を作例で確かめる
  4. 英文のお知らせを様式例の項目順で組み立てる
  5. 日本語版を正本とし、英語版との照合を済ませる

subsidiary の読み方や関連語は、同じ棚の読み方の記事で扱っています。英語の棚全体の入口は子会社設立の英語のまとめに戻ってご覧ください。

親会社の担当者の方へ

社内で過去に出した英文の資料を一つ選び、子会社の設立を表す動詞に印を付けてみてください。文書の中で動詞が入れ替わっていれば、法人の成立を言うのか事業の開始を言うのかを決め直し、次の子会社設立のお知らせでは最初の一文から同じ動詞で書き通せるよう、社内の英文の手引きに一行足しておくと安心です。

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